« 今日も放送されず(苦笑) | トップページ | フィットネスクラブ »

「正しい」という言葉

 今TVをつけたら「日本語ボーダーライン」という番組をやっているが、そこで「正しい送り仮名はどっち」とか言ってる。ちょっと待て。こいつは今何をもって「正しい」と言ってるんだ?ちょっとでも本を読む人ならわかるはず。送り仮名なんて、作家によっても人それぞれくせがあり、必ずこれが正解なんて決まってない。もちろん、学校教育の都合上「教える時はこれで教える」というのはあるだろうが、それを「正しい」という言葉にすり替えてしまうのは大間違い。

 念のため、御上がどう言ってるのかをネットで調べてみた。今学校教育等で基準になっている送り仮名の付け方は、昭和56年内閣告示第3号「改正 送り仮名の付け方」で定められているようだが、その前書きには次のように記されている。

1.この「送り仮名の付け方」は、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など、一般の社会生活において、「常用漢字表」の音訓によって現代の国語を書き表す場合の送り仮名の付け方のよりどころを示すものである。
2.この「送り仮名の付け方」は、科学・技術・芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。
3.この「送り仮名の付け方」は、漢字を記号的に用いたり、表に記入したりする場合や、固有名詞を書き表す場合を対象としていない。

 この前書きを見ても明らかな通り、この内閣告示においても、このルールに則った表記のみが正しくて他は間違いなんて一言も言ってないのである。もちろん、このルール自体は概ね世間における多数派の用法通りではあるので、何のポリシーもなくわざとこの基準から外そうと不自然な送り仮名を使うのはお勧めできないが、別にどちらでも構わないようなものについて、この基準から外れているから「誤り」と決めつけるのは全くのナンセンスである。実際にはある程度の幅をもって一般に許容されており、その範囲内でどういう送り仮名の付け方をするかによって、文体の見た目の雰囲気も変わってくるという類いのものだと考えるべきであろう。
 誤解してはならないのは、これはいわゆる「ら抜き言葉」の問題や、2ちゃんねる等を発信源とした愉快犯的意図的に誤字誤用を定着させようとする動き等とは全く別次元の問題であるということである。これらは日本語の崩壊というカテゴリーで語られるべき内容だが、送り仮名の問題は、そもそも従来の日本語において明確なルールはなかったものについて、教育や行政上の便宜のために決めた基準で「正しい」「誤り」という線引きをすることが許されるかという話である。近年テロップの濫用により、バラエティ番組等では1分に1回ぐらいの頻度でひどいワープロ誤字を垂れ流し、日本語の破壊の最先鋒となっているTVが、一方では「この問題では何を基準に正解とするか」ということも示さずに、便宜上の基準に外れたものを「誤り」として切り捨てるような番組を流しているというのは、なんとも片腹痛い話である。
 自分もある予備校で作問の仕事をしているので気になるのだが、試験問題であれクイズであれ「正解」「不正解」と白黒をつける際には、出題側には重大な責任がある。ずれた解答を「正解」としてしまえば、歪んだ認識を定着させてしまうし、複数の正解が可能な問題で的確な答えを「不正解」としてしまえば、柔軟な思考を封殺することになってしまう。今回の場合は、役所が便宜的に決めたルールの例外を切り捨てることで、文化としての日本語の広がりを封殺してしまっていることになる。こういう番組を、正しく批判的に見ている人なんてほとんどいないだろうなと思うと、そら寒い気分になる。

|

« 今日も放送されず(苦笑) | トップページ | フィットネスクラブ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/133198/6324381

この記事へのトラックバック一覧です: 「正しい」という言葉:

« 今日も放送されず(苦笑) | トップページ | フィットネスクラブ »