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技術の空洞化の恐怖

 TVを見ていたら、例の耐震強度偽装の問題について、ある人が、「建築構造士(構造設計がちゃんとできて、その能力のチェックを定期的に受けている人)の人数が絶対的に少なく、しかも、その一番重要な構造士が業界のヒエラルヒーの中で最下層扱いをされているというのが根本の問題」という発言をしていた。まさにその通りだと思う。
 基本的に、技術畑の仕事というのは大変なものである。常に最新の技術動向をフォローしないといけないし、本当の意味でのルーチンワークというものは存在しない。さらに、高度に細分化が進んでいるため、自分の担当している分野の概要すら他人に理解させることは困難な場合も多く、その技術が世の中にとって必要不可欠なものであるということを正しく理解しているのは自分だけという深刻な孤独(それは往々にして本人の思い込み等ではなく真実である)を常に抱えている。また、技術の細分化は、自分自身のその仕事に対する思い入れを維持しにくくする要因ともなる。そして、一部の先端的な研究開発に携わっている者を除く大多数の技術者にとって、その仕事の成果は、「何も不具合が発生しなかった」ということとしてしか表れず、逆に、クローズアップされるのは常にトラブルが発生した時である。
 このように、高い技術力を要し、縁の下の力持ち的な存在である技術職、理系職の人間が、今の世の中あまりにも不当な扱いを受けている気がしてならない。「勝ち組」「負け組」等というイヤな言葉があるが、本当に高い能力を持っていて、その能力を必要としている分野で役立てようとしている人が、表立った評価は受けにくい(高収入にも結びつきにくい)理系の職種であるというだけで負け組というレッテルを張られてしまっているのである。当然優秀な人材は技術職を敬遠するようになり(その中には堀江某のような迷惑な勘違い人種も出現し)、技術畑は圧倒的な人材不足に陥る。すると、能力のある技術職の人にはさらに負担が集中することになり、なおさら敬遠されてなり手がいなくなるという悪循環が起こる。当然技術者のモラルも低下する。そして、ただでさえ減っている技術職の中でも優秀な人材が、先端技術の開発に回されてしまうと、成熟した従来技術の保持運用という、本来最も層が厚くてしかるべきところに全く技術力が残らないことになってしまうのである。技術の内容自体はどんどん高度化していくのに、人的資本としての技術力が低下するというのは、非常に危険な状況である。
 このままでは、技術大国としての日本のバブルが崩壊するのも時間の問題。今回の強度偽装マンションのスカスカの鉄筋は、まさにその象徴であろう。さらに、これからあの間違ったゆとり教育世代が台頭してくると、本当にどんなひどい状況になるか、想像するだに恐ろしい。
 技術の空洞化の悪循環を断つには、技術職を努力すれば報われる魅力的なものとし、そこに優秀な人材を取り戻すための待遇面の整備や、育成システムの整備等、企業レベル及び国策レベルの努力が必要なのは当然だが、それ以前に、まず世間一般が技術職に対してもっと敬意を持つべきであろう。世の中、経理と営業だけでは何も始まらないこと、そして、生活のあらゆる場面で技術者の努力の成果の恩恵を受けていることを、そろそろ真剣に理解しないと、ひずみはもはや限界まできている。
 例の耐震強度偽装問題でも、あの一級建築士の確信犯的犯行のために、建築士という職業自体のイメージを悪化させ、志す者がいなくなるような悪循環を起さないように、マスコミや国は十分配慮してほしい。もちろん、その前提として、事件の背後にある歪んだヒエラルヒーを徹底して正すということが必要である。

 私のようなエンジニア崩れには言われたくないと言われそうだけど(苦笑)。

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