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メディアの日本語力

 ネットを流れるニュースの表題にひどいものを見つけた。

 「浦和イレブン躍動…アジアのライバルに返り討ち」

 ご存知の通り(かどうかはわからないけれど)、クラブW杯で、浦和レッズがイランのセパハンに快勝して、ACミランへの挑戦権を獲得した、その記事のタイトルである。
 「浦和イレブン躍動」それはいい。
 「アジアのライバルに返り討ち」・・・はぁ? 浦和は勝ったんじゃないの?
 記事の中身を読む。最後のあたりに、こんな記述が。「アジアのライバルを返り討ちにした王者の自信に揺らぎはなかった。」つまり、この記者は、「浦和がセパハンを返り討ちにした」と言いたいらしいのである。
 ここで、大きな間違いが2つある。まず、「返り討ち」という言葉の意味である。この言葉の用法は概ね2通りあるだろう。1つは、「AがBに襲いかかったが、Bの返り討ちにあった」という場合。これは、そもそもAとBが正対して合意の上戦うような場面で使われるものではないだろう。もう1つは、「前回はAがBに勝ったが、今回はAはBの返り討ちにあった」という場合。しかし、そもそも浦和は前回もセパハンに勝っているのである。いずれにせよ、「返り討ち」などという単語が使用できる状況ではない。(おそらく記者の脳内には、「浦和=アジア王者、セパハン=挑戦者」「セパハンがアジア王者に挑んでいる」という構図があったのだろうが、記事の中からはそのような文脈は読み取れない。)
 もう1つの間違いは、いわゆる「てにをは」の使い方である。「返り討ち」という言葉の不適切さを度外視しても、表題にするのであれば「アジアのライバルを返り討ち」であって、「アジアのライバルに返り討ち」ではない。後者の場合は、どう読んでも「アジアのライバルに返り討ちにあった」という意味にしか取れない。これが、例えば「***に反撃」であれば、「***に反撃した」「***に反撃された」という両方の表現が存在し、省略されたものをわざわざ受動態だと解釈するのは不自然なので、「反撃した」の方の意味に解釈されるだろうが、今回の場合、そもそも「***に返り討ちする」とか「***に返り討ちを与える」等という日本語は存在しないのだ。
 驚くべきことに、この記事は、ネットニュースとはいえ、ネット専門に配信している怪しげな会社ではなく、「毎日新聞」の記事であり、しかも署名記事である。

 まあ、今回の場合は、浦和が勝ったことは周知の事実なので、実際の影響としては、この記者が恥をかくことと、破綻した日本語を容認する風潮をまた助長したことぐらいだが、誤解を招くネットニュースの表題というものは、時として致命的な風評被害をもたらす。よくあるのは、例えば単語の羅列のような表題のせいで、どれが主語でどれが目的語かが不明というようなもので、その結果被害者なのにまるで加害者のように読めてしまうひどい表題が毎日のように配信されている。
 さらに問題なのは、ネットニュースの場合、記事のオリジナルの表題は記者が責任を持って書くかもしれないが、それがヘッドラインとして流される場合の、文字数制限に収まるように改変された表題の責任の所在が不明であるという点である。
 そもそも、「記事」というもの自体、たとえ事実に基づいたものであっても、記述者の主観によって要約されたものに過ぎないのであり、それが表題として要約され、さらにヘッドラインとして無理やり圧縮されたりすれば、それはもう真実とはまったくかけ離れたものになってしまう。そのヘッドラインだけが大量に複製されて人目に触れる。そのうちのほとんどの者は記事の(よほど関心のあるもの以外)記事の中身なんか読まない。関心はないにもかかわらず、間違った印象だけはしっかり刷り込まれていくのである。そして、そのことについてだれも責任は取らない。
 このように、ネットニュース配信の普及により、報道というものの持っていた僅かな信頼性のようなものも揺らいでいる状況において、最後の砦となるのは、記事を書く者の持つ、真実を伝えようとする使命感や良心であるが、その彼らが、真実を伝えるに足る日本語力を持っていないとしたら、もはやどこにも救いはない。

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コメント

自己レス。
 さすがに、翌日には「アジアのライバルに返り討ち」は「アジアのライバルを返り討ち」に修正されたようです。
 あと、「返り討ち」の2番目の用法として挙げたものは、辞書的には誤用のようですね。「役不足」の「誤用」のように、よく見かけるものではありますが。
 いずれにせよ、「返り討ち」という言葉は、あくまでもリベンジを試みた側からの目線で用いられるものであって、完全に浦和目線で書かれた記事の中で使われているのは非常に違和感を覚えます。

投稿: hiro-s | 2007.12.11 11:48

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