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「孤宿の人」宮部みゆき

 帰省の往復の飛行機で読んでいたのは、宮部みゆきの時代小説「孤宿の人」。いやあ、この人はうまいね、本当に。いろいろ思うところのあった帰省をはさんで読んだということもあるのだけど、ラストのあたりでは涙腺の決壊したジジイと化してしまいました。

 この人の作品は人に対する愛情に満ちているのだけど、魅力的な登場人物たちに必ずしも(現世での)ハッピーエンドは用意されていないわけで、冷静に考えると物語の作者というものは、どれだけ残酷な神なんだとも思います。この作品でも、一番感情移入されるであろう2人の人物にああいう結末が用意されていますが、物語を設計する冷徹で緻密な構成力と、組み上げられた世界をあらためて愛情豊かに描く表現力を併せ持っているからこそ、この作者は傑作を生み出し続けることができるのでしょう。
 この作品では、主人公の少女を中心とした物語の背景として、ある町でおきた民衆による騒乱〜大火という悲劇が描かれています。一人一人はそんなに悪い人たちではないのだけど、ちょっとした掛け違い、ちょっとした無理解、愚かしさ、身内意識などが積み重なってねじ曲がって誰も望んでいない悲劇を引き起こすプロセスは、「悲劇」の一つのステレオタイプとはいえ、匿名での尖った言葉の飛び交う今のネット社会を見ると、実は非常に現代的なテーマでもあります。

 当代きっての語り部の名作、全ての人にお勧めです。

 実は、昨年買って読まずに放置している本が2冊あります。
 1冊は、グイン・サーガの最新刊にして最終巻。他の巻と比べ半分ぐらいの厚さの本を手に取ったとき、その意味するところにあらためて寂寥の思いが募り...。栗本氏の死後、この前に既に3巻の新刊が発売されており、それも読み始めるまで少しためらいがあったのですが、最後まで見届けないとと思い、ここままで読んできました。が、その3巻の中でも登場人物の運命は大きく転換し、これからどうなっていくんだろうという本来なら期待感となるところが全て喪失感となり、そして迎えた最終巻。未だ、最後のページをめくるに至るプロセスを踏む勇気が沸いてきません。もう少し、自分の心が弱っていないときに、穏やかな気持ちで読みたいと思います。
 もう1冊は、東野圭吾の「赤い指」。この人のミステリーは一通りは読んできているのですが、近年は「殺人の門」「レイクサイド」「さまよう刃」といった、ただひたすら悲惨で、救いのない物語、そしてそれがいつ自分の日常に降りかかってくるかわからないのだということを認識させようとするある種の社会派ミステリーが多くなってきています。でも、さすがにそういう小説を読むのはもういいかなと思うようになってきました。同じように救いのない事件は現実社会でも次々と起きています。それを他人事とは思わずに自分の周辺に置き換えて考えることは大切だと思いますが、小説という形でその悲惨さだけを繰り返し追体験するというのは、不必要な「不幸の拡大再生産」のような気がするのです。「容疑者X〜」はそれでもなんとか読めたのですが、つい今までの習慣で文庫の新刊が出たので条件反射的に買って、途中まで読んで後悔したのが、この「赤い指」。そんなに読書に時間もとれない今、気が進まない本を読むのももったいないので、読むのをやめました。(もちろん、作品としてダメという意味ではなく、私個人が勝手に食傷しているだけです。)

 それにしても、一週間ぐらいのんびり読書に専念できるような贅沢な時間はいつか来るのだろうか。今はあまりにも穏やかさから程遠い...。

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