「理系への数学」

特に大々的に宣伝するものでもないのですが、別に誌名を伏せることもなかったな、と思い、改めてご紹介。

月刊誌「理系への数学」で、今年の6月号より友人の予備校の先生と共著で「大学数学と入試問題研究」という記事を連載しています。受験数学に関しては、仕事の関係で定期的に頭にリロードされていたのですが、大学で勉強した領域を全面的に見直す機会はあまりなかったので、毎月四苦八苦しながら書いてます。

そろそろ次回締切なので、また頭をこちらのモードに切り替えないと。ちなみに、今度の締切は11月号掲載分。10月に11月号が出るという雑誌の世界独特のルールで、なんだかもう気分は年末?

ちなみに、今執筆中の本は、出版社は同じですが、この連載の内容とは全く関係ありません。

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ゼータ関数の話

 最近、北野武が数学の深夜番組をやっているが、今週の話で、前々から「許せない」と思っていたある式が出てきたので、それについて。
 その式とは、次のようなものである。

ζ(0)=1+1+1+・・・=-1/2

 1を無限回足した結果が-1/2になるという、小学生が見てもおかしいとわかる式。こんなものを見せてこれが今の数学の成果であるみたいなことを言うから、「数学なんて結局象牙の塔でわけのわからない思考ゲームを繰り返しているだけの現実世界には役に立たない学問」というような印象を与えてしまうのである。
 もちろん、こんな式が正しいなんて数学者が言っているわけではない。(少なくとも、イコールの記号の意味を変えない範囲においては。) ただ、数学に携わる者がこんな式を持ち出してくるのには当然なんらかの意図はある。ここで言おうとしているのは、本当は次のような内容であると思われる。(大筋は間違ってないと思う、多分。)

*****
ゼータ関数は、z>1(厳密にはzの実部が1より大きい複素数)の範囲においては
ζ(z)=1^(-z)+2^(-z)+3^(-z)+4^(-z)+・・・
と定義されるものであるが、さらに、この関数が数学的に意味のあるような「ある特徴」を保つように、上記範囲以外のzについても値を持つように定義域を拡大して再定義してやる(「解析接続」のこと)と、
ζ(0)=-1/2
ζ(-1)=-1/12
等の値を取る。
もし、元々の定義のまま考えるならば、
z=0では1+1+1+・・・
z=-1では1+2+3+・・・
と、いずれも∞に発散する無限級数であり、これだけ見ると、-1/2や-1/12といった値とは無関係に思える。しかし、これらの無限級数に量子力学の世界と関連する「ある解釈」を与えてやり、その上で「余分なファクターを除外する」という操作(「繰り込み」と言うらしい)をして、「1+1+1+・・・」や「1+2+3+・・・」の中の意味のあるファクターだけを見るとそれぞれ-1/2、-1/12という値になるということが近年明らかになった。つまり、ゼータ関数は、定義域が拡張された範囲においても、おおもとの定義である無限級数の「ある解釈の結果」としてその値をとらえることができることがわかったのである。
*****

 私自身、細かい中身を理解しているわけでは全くなく、大ざっぱな情報から意味の通る文脈に構築してみただけだが、これだけ見ても、間違っても「1+1+1+・・・」と「-1/2」を単純にイコールで結んでいいはずがないのは明らかである。にもかかわらず、「今の数学ではこういうことになっているらしい」というような文脈では必ずと言っていいほど「1+1+1+・・・=-1/2」「1+2+3+・・・=-1/12」という式が登場する。これが(数学にそれなりの思い入れのある者としては)許せないのだ。
 この繰り込み云々の話は、どちらかというと、数学が「机上の空論」の世界ではなく、例えば量子力学と言った現実世界と密接に繋がっている世界であるということを示す話であるはずなのに、話を面白くするために途中の文脈をすっ飛ばして「1+1+1+・・・=-1/2」などという無茶な式を前面に出してしまっているがために、全く逆の印象を与えてしまっているのがなんとも腹立たしい。「一見」どころか本当にデタラメな式を見せられて「不思議ですね」と言われても、馬鹿にされたような気分になるだけである。

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「ドッグは英語で犬」

 とある予備校のある模試を作る仕事をしている。基本的にバイトの皆さんが作った問題を叩き台にして、それらを最終的に使えるような物に作り直して問題セットを仕上げていくのだが、こういう仕事をしていると、人々がいかに伝えているつもりで相手に伝わらない言葉を平気で使っているかがよくわかる。日常生活においては、それでもまだなんとかなる場合が多いのだろうが、さすがに試験問題として出題してそれを採点するようなものの中で、いろんな解釈ができる記述を使うのはまずいので、表現の正確さには非常に神経を使うことになる。

 そうは言っても、作問のバイトをするぐらいのそれなりに優秀な人が作っているのなら、本人が最後に1回でも見直していればそんなにひどいことにはならないだろうと思われるかもしれないが、実はなかなかそうではない。そもそも、問題を作って出題するという行為自体、学校の先生でもない限り一般の人はほとんどやる機会がないのでよくわからないかも知れないが、表現や設定の多義性による問題の不正確さというものは、出題した本人が一番発見しにくいものなのである。作問者は、問題の舞台となる設定や、何を問うているか、そしてどのように考えてどう答えることを想定しているかを「既に知っている」。もちろん自分で考えた問題なのだからそれは当然なのだが、その「既に知っている」頭で問題を読み返した時に、その文章を問題なく理解できるのが、「既に知っている」頭だからなのか、そうでなくても理解できる文章になっているのかを、正確に判断するのは、非常に困難な作業であり、結局作問者自身が発見できるのはせいぜいタイプミスぐらいのものだったりするのである。

 では、他の作問者とクロスチェックさせれば大丈夫かというと、多少はバグを発見できる可能性は増えるかもしれないが、それでもかなりの物はスルーされてしまう。例えば、ある表現に実は曖昧な所があり、その解釈の仕方によって、Aという意味に取れる場合と、Bという意味に取れる場合があるとする。そして、その表現を読んだ時に、6割の人がAと解釈し、4割の人がBと解釈するとしよう。ここで重要なのは、そういう多義的な表現に対し、「AとBのどちらの意味にも取れるから、解釈不能である」という反応をする人は、ほぼ皆無だという点である。したがって、多義的な表現であっても、チェックする人がたまたま作問者の意図した通りに解釈したならば、そこはチェックされない。今回の例で、Aが作問者の意図した解釈であったならば、クロスチェックを行っても、6割の確率でスルーされてしまうのである。
 また、たまたまチェックする人が作問者とは違う解釈をしたり、他の部分で問題の設定が表現しきれていなかったりで、問題で何を問うているかよくわからなかったとしても、問題とセットで作成される解説にもっともらしいことが書いてあってそれを読んで納得してしまえば、問題を理解できなかった自分の方が理解力が足りなかったのだと勘違いして「問題の不具合」ではなく「難しい問題」と判断してしまい、やっぱりスルーされてしまうことも多い。そんな馬鹿なと思うかもしれないが、そこにもトリックがある。解説を読んでしまった時点で、実はこのチェック者も、作問者と同じ「既に知っている」頭になってしまうのである。したがって、「なるほどそういう意味だったのか」と納得してしまった後で改めて問題を読み返しても、今度はなぜ前回自分が理解できなかったのかが理解できないということになる。結局、単に作問者同士のクロスチェックをさせたところで、とてもじゃないが商品として出題できるような品質レベルにはならないのである。

 今やっている模試は、特別な知識を問うようなものではなく、基本的に論理的な物の考え方ができるかどうかを問うような類いのものなので、さらにハードルは高くなる。専門的であればあるほど、出題者・解答者を含めて、知識を共有していることを前提としていい範囲が広くなるので、出題する側としては、多少言葉足らずでも、それを理解するために必要な背景となる知識も問題の一部だと思えば、許容されることになる。ところが、専門的な知識を前提としない場合は、同じ表現でも、全く違うバックボーンを持つ人が読めば、全く違う理解になってしまう可能性も常に意識しなければならず、また、「これは常識だろ」と思って説明なしに使った言葉が、必ずしも世の中で認知されているとは限らなかったりするので、ストライクゾーンは一気に狭くなる。専門的な知識による先入観を全て排除した頭でも理解でき、逆に専門的な正確な知識を持っている人から見てもそれと矛盾しないような物に仕上げるというのは、これまた大変な作業なのである。

 書き始めたら止まらなくなってきたが、とりあえず、いかに心の健康にとって宜しくないお仕事をしているかという雰囲気だけは伝わったかもしれない(苦笑)。とにかく、一つ一つの言葉に対し、徹底的に意地悪な視線を向けないといけないのである。(裏を返せば、言葉を伝える相手を徹底的に思い遣ることでもあるのだが、問題は、その相手が不特定の思考パターンの読めない相手であること。) そして、この仕事をしている期間中は、この「厳しすぎるチェッカー」を、常に頭の中に飼っていないといけないのだ。こいつは、明らかに「クリエイティブ」という単語とは真逆の指向性を持つ。だから、こいつが頭を支配している時に、「合間を見て作曲活動」なんて、とてもじゃないができない。それだけではなく、世の中をうっかりこいつの視線を通して見てしまうと、5秒で鬱になれる(爆)。
 でも、品質を守る仕事というのは、試験問題に限らず、本来徹底的に後ろ向きな視線が必要な仕事。そしてそれがないと、物事は破綻する。「クリエイティブ」とは真逆かもしれないけど、例えば一人で最後まで作り切るクリエーターで、優秀な人であれば、実は必ずこの「厳しいチェッカー」の要素も自分の中に取り込んでいるはずである。問題なのは、物事の規模や複雑さが大きくなり、分業がなされた時に、だれかがその後ろ向きな仕事を専門にやらないといけないということ。そして、そんなことはだれもやりたがらないから、今、世の中のあらゆる局面において「品質」にかけるべき労力が圧倒的に不足しているのである。(それが5秒で鬱になれる理由でもある。)

 さて、タイトルの「ドッグは英語で犬」とどう話が繋がるのかというと...。夕方ふとテレビをつけてザッピングしてたら、たまたまバラエティ番組で「次々に出てくる簡単な文を聞いて、それが正しければYes、間違っていたらNoと全員でリズムに合わせて答える」というゲームをやっていた。その中で出題されたうちの一つが、この「ドッグは英語で犬」である。番組では、ロンブーの亮が「Yes」と答えたのだが、他のメンバーは「No」と答え、亮だけが不正解でブーイングを受けていたのだ...ちょっと待て。
 確かに「ドッグは、英語で言うと犬」だったら、明らかにおかしな文である。しかし、日本語には「ドッグは、英語で犬の事を言う」という言い回しも存在する。そして、この場合は何ら問題ない正しい文である。これを「ドッグは英語で犬」と省略してしまったとたんに、どちらの意味かわからなくなるのである。本当は、この多義的な文をたまたま亮は後者として解釈し、他のメンバーは前者として解釈して、作問者(恐らくは放送作家)は前者のつもりで作ったというだけの話なのだが、言葉に対しある解釈を行ってしまった時点で、他の解釈の可能性を想定できる人はほぼ皆無という現実により、亮だけが納得していないという、ある意味バラエティ的には一見OKな状況が出現したのである。(もちろん、亮と同じ後者の解釈をした視聴者が亮と同じ不快な思いをしたという意味で、バラエティ的にも本当は失敗なのだが。) さらに、日常会話において、多義的に解釈できる文が用いられて、そのうちの片方の解釈では明らかにおかしな意味になる場合は、もう片方の解釈を採用するのが、コミュニケーションにおける大原則であることを考えるならば、この場合はむしろ亮の解答の方が正解に近い。
 放送作家の立場で考えると、まず「瞬時に判断しにくい間違った文」のアイディアとして、「ある言葉を英語に訳すとこうなる」というものの英語と日本語を入れ替えるというナイスなアイディアを思いつき、「『ドッグは、英語で言うと犬』、これがいいや」ということになる。ただ、リズムに合わせるという都合上、短く「ドッグは英語で犬」としても、元の文と同じ意味を表すので、そのままOKとしてしまったのである。この流れの中で、この放送作家が間違いに気付くチャンスはほとんどない。唯一「元の文と同じ意味を表す」ではなく、本当は「元の文と同じ意味も表す」に過ぎなかったという所が、実は重大なポイントであったのだが。

 たまたまこの場面を目撃した時、仕事で日々苦しめられている「作問者の思い込みによる誤謬」のあまりにも典型的な例だったので、ついこの「ドッグは英語で犬」をメモしてしまっていた。最近またいろいろ工夫をこらしたクイズ番組がブームのようだが、見ると必ず1回の放送のうち何問かにはこの手の誤謬が含まれている。パズルやクイズは嫌いではないのだが、そういう問題が出てくると、とたんに口元が引き攣って笑えなくなっている自分を発見する。そして、「また職業病が出た」と深いため息をつくのである。

 当初書こうと思っていた内容とは、書いているうちに違う方向に行ってしまったが、それはまた別の機会に。(本当は「携帯メールや掲示板等の、言葉足らずの短文によるコミュニケーションの持つリスク」の話に持っていく予定だったのだけど(爆))
 さて、あと一週間で一旦この仕事は一山越えるのだが、実はその前にまた作曲のコンペの締切が入っている。今回はストックでもいいから何曲でもという話なので、とりあえず月曜いっぱいかけて昔の曲のアレンジを見直して提出しようかな、と。たまたま方向性が近いものがあるので。(週の後半のスケジュールはむちゃくちゃ大変になるが。)だから本当はこんな駄文書いてる場合ではないのだけど、まあ、気持ちを切り替えるためにも現状を総括しときたかったってことで。もーっとがんばれ自分。

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